認知症とは
認知症では、脳の神経細胞が何らかの原因によって著しく減少し、それによって記憶障害や見当識障害などが進行します。最終的には日常生活にも支障をきたすようになり、自立するのが困難となって、支援や介護を受ける必要がある状態になってしまいます。現時点では認知症を完治させることは難しいですが、早めに気づくことができれば薬物療法等を用いることで病気の進行を遅らせることができます。したがって、他の病気と同様に早期発見・早期治療がとても重要です。
なお、認知症を見分ける方法の一つとして、もの忘れの有無があります。ただし、人には老化現象によるもの忘れもあります。このケースに関しては自然な現象であり、心配する必要はありません。ただ、一見すると認知症で見られるもの忘れとの区別がつきにくく、単なる良性健忘と思っていたら実は軽度認知障害(MCI:良性健忘と認知症の間に位置する状態)で、さらに放置を続けたことで認知症に移行してしまったというケースも少なくありません。良性健忘と認知症のもの忘れの違いには以下のようなものがあります。
心当たりがあるという場合は、一度当院をご受診ください。
- 加齢によるもの忘れ(良性健忘)
出来事の一部を忘れているのが特徴 -
- 知人や有名人の名前が出てこない
- 食事をしたことは覚えているが、そのメニューが思い出せない
- 眼鏡を置いたとされる場所を忘れてしまった
- 旅行に行った場所(地名)が出てこない
など
- 認知症でみられるもの忘れ
出来事そのものを忘れてしまっているのが特徴 -
- 家族や親友の名前が出ないばかりか、関係性も忘れている
- 食事をしたこと自体覚えていない
- 眼鏡をどこかに置いたことも忘れている
- 旅行をしたという記憶すらない
など
認知症の有病率は、高齢化が進むことによって急増していますが、2025年には推定患者数は約700万人になるともいわれ、2050年には1千万人に達するともいわれています。
認知症の原因
発症の原因はひとつとは限りません。ただし、高齢者に発症する認知症は、大きく変性性認知症と血管性認知症の2つに分類されます。前者は、脳実質、いわゆる脳内の前頭葉や側頭葉などの神経細胞が変性することで発症する認知症です。種類としては、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)があります。後者は、主に脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)によって引き起こされる認知症です。
なお、日本人の認知症患者様のうち約6割がアルツハイマー型認知症です。さらにレビー小体型認知症と血管性認知症の患者様も含めると、全認知症患者様の8割以上を占めるため、これらは三大認知症とも呼ばれています。
診断方法について
認知症でよく見られる症状には、患者様にほぼ見られる中核症状と、その中核症状が起点となり、本人の性格や環境の変化等によって二次的に起きるとされる周辺症状があります。
中核症状とは、脳の中の神経細胞が減少することで現れるもので、記憶障害(新しいことが覚えられない 等)、見当識障害(時間や場所、知っているはずの人等を認識できなくなる 等)、遂行機能障害(計画を実行することが困難になる 等)、失語(読む、書く、聞く、話すなどの言語機能が失われる)、失行(手足は動くが動作の仕方がわからなくなる)、失認(対象物は目で見えているが、それが何かわからない)などの障害が見られるようになります。
また、周辺症状(BPSD)は、先にも述べたように中核症状がきっかけとなって起きる二次的症状のことで、うつ状態、幻覚・妄想、徘徊、不眠、不潔行為、暴言・暴力などが見られるようになります。これらの症状の出方は各々の患者様によって異なり、環境にも影響されやすいということもあります。ただし、これらの症状は治療やケアによって改善することもあります。
主な認知症のタイプ
認知症を発症させる原因疾患は、現時点で70種類以上あるといわれています。ただし、日本人の全認知症患者様の8割以上は、3つのタイプで占められることから、これらは三大認知症と呼ばれています。それぞれの特徴は次の通りです。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症とは
全認知症患者様の6割以上を占め、認知症の中で最も多いタイプです。脳の中の海馬と呼ばれる部分で萎縮が見られるようになります。萎縮の原因としては、βアミロイドたんぱくと呼ばれる異常なタンパク質が蓄積することで神経細胞が死滅することによって引き起こされるといわれています。女性の患者様が多いのも特徴で、男女比はおよそ1:2です。なお、アルツハイマー型の場合、65歳未満で発症する患者様も少なくありません。
主な症状ですが、中核症状としては記憶障害(物忘れ 等)、見当識障害(年月日や時間がわからなくなる 等)が見られ、萎縮部位が頭頂葉や前頭葉・後頭葉などに及ぶとさらに悪化し、記憶を失ったり、肉親すらわからなくなったりします。また、周辺症状として被害妄想(物盗られ妄想)や身なりがだらしなくなることが見られます。病状は時間をかけて進行しますが、次第に日常生活に介助が必要となり、最終的には寝たきりとなります。
現時点で完治させる治療法は確立していません。中核症状の進行を抑制するための薬物療法として、ドネペジルなどのChE阻害薬、メマンチンとも呼ばれるNMDA受容体拮抗薬が用いられます。また、精神症状が見られる場合は、非定型抗精神病薬や漢方薬を使用することもあります。
また薬物療法以外にも、運動療法や回想法(昔の思い出などを語る)、レクリエーションなどを取り入れることも大切です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症とは
脳内にレビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積することで神経細胞が減少し、それによって発症する認知症です。日本人の全認知症患者様の2割程度を占めるタイプでもあります。同疾患では、患者様の脳の萎縮がはっきり確認できないこともあります。男女比では、男性患者様の方が2倍程度多いとされています。
主な症状ですが、変動して見られる認知機能障害(物事に注意を向けられない 等)をはじめ、幻視や妄想、パーキンソン症状(手足が震える、動作時の動きが遅くなる、筋肉が硬くなる、無表情 等)、睡眠時の異常な言動などが挙げられます。
治療については、対症療法が基本となります。認知機能障害に対しては、ドネペジルなどのChE阻害薬を使用し、幻視などの周辺症状を抑えるためには、漢方薬や非定型抗精神病薬などが使われます。このほか、パーキンソン症状には、パーキンソン病の患者様と同様にレボドパ製剤が、睡眠時の異常行動に対しては抗てんかん薬が用いられます。
血管性認知症
血管性認知症とは
脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の発症によって引き起こされる認知症です。この場合、主に動脈硬化の促進(促進の原因は生活習慣病の罹患や喫煙が多い)によって、脳内の血管が詰まる、破れるなどします。そのため、血管障害された部分のみ機能が低下するまだら認知症(症状にムラがある)が見られることもよくあります。
主な症状ですが、認知機能がまだら状に低下します。例えば、記銘力は低下しているが、判断力は正常であるといったことです。また、もの忘れも見られますが、この場合は本人にその自覚があるなど軽度です。このほか、手足に麻痺やしびれ、感情が不安定でふとしたことで泣く、笑うといった表情(情動失禁)も見受けられます。
治療に関してですが、アルツハイマー病等で用いられる薬物を使用することはありません。血管性認知症は、脳血管障害を再発させると状態をさらに悪化させるので、その発症リスクを低減させるための治療が行われます。具体的には、動脈硬化を促進させる生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症 等)の治療や予防、禁煙などが行われます。さらに、血液をサラサラにするための抗血小板療法や抗凝固療法が用いられることもあります。