発達障害とは

そもそも発達とは、心身の成長や進化のことをいいます。生後間もない赤ちゃんは、「おぎゃあ」と泣く、母親のおっぱいを飲むことくらいしかしていません。ただ時間が経過するにつれて、ハイハイをする、言葉を話す、立ち上がって歩くなどしていきます。これが発達といわれるものです。ただその過程において何らかの障害が起き、それが精神機能に及び、日常生活に支障をきたしている状態にあるとされているのが発達障害です。

発達障害は病気ではなく、先天的な脳機能のトラブルにより起きるといわれています。脳の中には、様々な働きを持つ部位(海馬、小脳、間脳、前頭葉 等)が集まっていますが、これらがうまく協調しないことで起きるのではないかと考えられています。したがって、本人の努力や親のしつけ等による家庭環境の問題によって起きるということはありません。

発達障害の種類

発達障害には種類がいくつかあります。その中でも代表的とされているのが、自閉症スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)です。それぞれの特徴は以下の通りです。

自閉スペクトラム症(ASD)

かつては、自閉症、アスペルガー症候群などと呼ばれていたものをまとめた呼び名になります。社会的コミュニケーションに関係する脳の働きに異常がみられるとされるタイプで、ASDの典型的な特徴がみられる場合は、2~3歳で確定診断がつくこともあります。
特徴的なサインとしては、目を合わせようとしない、一人で遊ぶことを好む、コミュニケーションが一方通行、音や光などの感覚刺激に過敏に反応する、強いこだわりをみせる、かんしゃくを起こすといったことが見受けられるようになります。

思春期や成人期になると、細かなコミュニケーションが必要となっていきます。そのため、本音と建て前が理解しづらい、空気が読めない等、人間関係に対する悩みやトラブルを抱えるようになります。これらによってうつ病や不安障害といった、こころの病気を発症し、二次障害を引き起こすということもあります。

注意欠如・多動症(ADHD)

落ち着きがない、集中することが困難、衝動的に行動するといったことがみられます。ADHDの診断がつくようになるのは、小学校入学前後の6歳くらいからになります。この頃になると、授業中に席を立つ、忘れ物が多い、順番を待つことができないなど、上記に挙げた3つの特徴というのが、日常生活などでみられるようになります。

なお成人になると、多動性や衝動性は目立たなくなりますが、不注意(注意欠如)の特性はそのまま続くことが多いです。そのため、社会人になってから仕事で同じミスを繰り返すことで、初めてADHDに気づいたという方も少なくないです。

学習障害(LD)

知的機能の発達にこれといった遅れはみられないものの、「読む」「書く」「計算する」といった学習分野の中で、極端にある分野だけが突出して成績が悪い、その学習だけが非常に困難な状況にある場合を学習障害といいます。このような状況にあると、根気よく勉強したり、練習したりといっただけでは、なかなか改善することは困難で、専門的な支援というのが必要となります。

発達障害の子どもによくみられる傾向

一口に発達障害と言いましても、症状の現れ方は各々で違ってきます。また同じタイプ(ASD、ADHD 等)であったとしても、年齢や環境によっても変化するようになります。よくみられる傾向については、次の通りです。下記の項目に心当たりがあり、日常生活に支障をきたしているという場合は、お気軽に当院までご相談ください。

  • 一人で遊ぶことが多い
  • 他者とコミュニケーションを取るのが苦手のようだ
  • 光や音、匂いなどに敏感、あるいは鈍感である
  • 不注意による忘れ物やミスが多い
  • 学習面で極端に苦手な分野がみられる
  • 落ち着きがなく、体を動き回している
  • 気持ちや行動の切り替えが困難
  • 衝動的な行動をとる
  • 物事に集中していない

など

診断方法について

発達障害の診断については、主に医師が行います。その内容に関してですが、まずは医師による問診となります。そこで、保護者あるいは本人に日常生活での悩みや困りごとをお聞きします。また小さい頃の様子、幼保や学校での過ごし方なども診断をつけていくうえで重要な判断材料になります。

診断をつけるのに必要と医師が判断すれば、脳波を調べる検査をはじめ、CTやMRIを用いた画像検査で脳の状態を確認することもあります。また心理検査として、発達の程度を調べる検査、知能検査(情報処理や知識の習得に関する能力等をみる)なども行います。これらの結果等を踏まえ、さらに国際的な診断基準(DSM-5 等)に照らし合わせるなどして、最終的に医師が診断をつけていきます。

治療について

発達障害の治療方法には、特効薬というものはありません。その内容については、日常生活に支障が及ばないための環境調整や支援といったものが中心となります。タイプ別の治療法は次の通りです。

自閉スペクトラム症(ASD)の治療法

療育と環境調整が中心となります。療育とは、日常生活を自立して過ごせるようにするための援助ということになります。この場合、本人ができることを活かしたり、増やしたりすることを行います。また人間関係構築に必要な能力を身に着けるためのソーシャルスキルトレーニング(SST)、TEACCHプログラムなどを行っていきます。また環境調整については、物事に集中しやすくするために周囲に刺激物を置かず落ち着いた場の提供をはじめ、言葉での説明よりも図表などを示して視覚的に理解しやすくする、規則正しい生活習慣を身につけさせるなどしていきます。

また親などの養育者に対する支援も大切で、発達障害がどのようなものかを知り、子どもへの接し方を学ぶといったことも欠かせません。

ADHDの治療法

この場合も環境調整が大切です。勉強などに集中できるように気が散るものは周囲に置かない、やるべき課題をひとつに絞るなどして明確化することで集中力を持続させるなどしていきます。さらに日常生活に支障が出にくくなる対策として、人間関係を円滑にするためにその場での適切な行動を訓練していくソーシャルスキルトレーニング(SST)も欠かせません。そのほか、保護者等の養育者がADHDの子どもとの接し方を学ぶペアレントトレーニングを受けることも重要です。

なお上記のみでは対応が不十分という場合は、症状をコントロールするための薬物療法が必要に応じて行われます。用いられるのは、メチルフェニデート、リスデキサンフェタミンメシル、アトモキセチン、グアンファシンなどです。

LDの治療法

知能に問題はないとされているので、主に苦手な教科と向き合うことになります。まず指導方法を工夫するというのがあります。例えば、課題を細かく設定し、繰り返し練習できる環境を作り上げていきます。これによって小さいながらも成功経験を積み重ねていくことで自信につなげていくという方法があります。
また合理的な配慮として、学習指導補助員や学習補助具(正しく読むことが困難な場合は、リーディングトラッカーを使用する 等)を活用する、試験時間を延長する等も行っていきます。なおADHDを併発している場合は、それに対する薬物療法を行うこともあります。